私が血液内科病棟で勤務した年数は5年になります。血液内科病棟では、白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など、血液疾患を抱える患者さんが治療を受けています。これらの病気は長期にわたる治療が必要であり、看護師には専門知識や技術だけでなく、患者さんの気持ちに寄り添うケアも求められます。この記事では、私の経験も元に、血液内科病棟における看護師の仕事内容を具体的に解説していきます。
いくつかに分けて説明しますが、今回の記事では疾患について取り上げます!
血液疾患に関する知識と技術が求められる仕事
血液内科病棟では、病気の特性や治療に関する専門的な知識が必要です。また、患者さんの治療過程での身体的・心理的ケアが重要な役割を果たします。
主な血液疾患の知識
- 白血病: 血液中の白血球が異常に増殖する疾患で、化学療法や骨髄移植が行われます。
- 悪性リンパ腫: リンパ球のがんで、化学療法や放射線療法が主な治療法です。
- 多発性骨髄腫: 骨髄の形質細胞ががん化し、骨の脆弱性や貧血を引き起こす疾患です。
白血病
白血病には2種類あります。⬇️
白血病(Leukemia)は、血液や骨髄に存在する血液細胞ががん化する疾患で、白血球を主な対象とする血液のがんの一種です。白血病では、異常な白血球が骨髄内で大量に増殖し、正常な血液細胞(赤血球、白血球、血小板)の生成が妨げられます。これにより、貧血、感染症、出血などの症状が引き起こされます。
白血病の分類
白血病は、進行の速さとがん化した細胞の種類に応じて以下の4つに分類されます。
進行の速さによる分類
- 急性白血病(Acute Leukemia)
- 進行が速く、治療を急ぐ必要があります。
- 未熟な血液細胞(芽球)が異常増殖します。
- 慢性白血病(Chronic Leukemia)
- 進行がゆっくりで、症状が出るまでに時間がかかります。
- 成熟した異常な血液細胞が増殖します。
細胞の種類による分類
- リンパ性白血病(Lymphocytic Leukemia)
- リンパ球(白血球の一種)ががん化します。
- 骨髄性白血病(Myeloid Leukemia)
- 骨髄細胞(赤血球、血小板、白血球の元となる細胞)ががん化します。
これらを組み合わせると、以下のように4つの主要な分類ができます:
- 急性リンパ性白血病(ALL)
- 急性骨髄性白血病(AML)
- 慢性リンパ性白血病(CLL)
- 慢性骨髄性白血病(CML)
白血病の症状
白血病の症状は、正常な血液細胞が減少することで生じます。主な症状は以下の通りです:
赤血球減少(貧血による症状)
- 疲労感、倦怠感
- 息切れ
- 顔色不良
白血球異常(免疫力低下による症状)
- 発熱
- 繰り返す感染症
血小板減少(出血傾向)
- 止まりにくい出血
- 鼻血
- あざができやすい
- 歯ぐきの出血
その他
- 骨や関節の痛み
- リンパ節の腫れ
- 肝臓や脾臓の腫大
白血病の原因
白血病の明確な原因は不明ですが、以下の要因がリスクを高めるとされています:
- 遺伝的要因: 染色体異常(例: フィラデルフィア染色体)
- 放射線や化学物質への暴露: 高線量の放射線、ベンゼンなど
- ウイルス感染: ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)など
- 既存の血液疾患: 骨髄異形成症候群など
診断
白血病の診断には以下の検査が行われます:
- 血液検査
- 白血球数、赤血球数、血小板数の異常を調べる。
- 骨髄検査
- 骨髄液を採取し、異常細胞の有無を確認する。
- 染色体検査
- 染色体や遺伝子異常を調べる。
- 画像検査
- 臓器の腫大やがん細胞の広がりを確認する(X線、CT、MRIなど)。
治療法
白血病の治療法は種類や進行度によって異なります。主な治療法は以下の通りです。
治療法 | 詳細 | 主な対象 | メリット | デメリット |
---|
化学療法 | 抗がん剤を使用して異常な血液細胞を殺す治療法。 | 急性白血病(ALL、AML) | 標準的で効果的な治療 | 副作用(吐き気、脱毛、感染リスクなど) |
分子標的薬 | 特定の遺伝子やタンパク質を標的とする薬剤(例: イマチニブ、ダサチニブ)。 | 慢性骨髄性白血病(CML)、特定の急性白血病 | 高い特異性と比較的少ない副作用 | 高価で長期使用が必要 |
造血幹細胞移植 | 化学療法や放射線療法後に健康な造血幹細胞を移植。 | 難治性・再発性白血病 | 根治の可能性がある | 高リスク(感染、拒絶反応、長期入院) |
免疫療法 | CAR-T細胞療法など、患者の免疫細胞を改変してがんを攻撃する治療法。 | 再発性急性リンパ性白血病(ALL)など | 高い治療効果を持つ可能性 | 高額で副作用(サイトカイン放出症候群など) |
放射線療法 | 特定の部位に放射線を照射してがん細胞を破壊。 | 骨髄移植前の全身照射、局所的治療 | 骨髄移植との併用に効果的 | 周囲の正常組織に影響を与える |
支持療法 | 感染予防、栄養管理、輸血などで治療を補助する方法。 | 全ての白血病患者 | 症状の緩和や治療効果の補助 | 根本治療ではない |
経過観察 | 症状が出るまで治療を行わず、定期的な検査で状況を確認。 | 慢性リンパ性白血病(CLL)で進行が緩やかな場合 | 不必要な治療を避けられる | 進行を見逃す可能性がある |
予後と生活の質
白血病の予後は、白血病の種類や治療法、患者の年齢、全身状態によって異なります。
- 急性リンパ性白血病(ALL): 小児では高い治癒率(約80%以上)。
- 急性骨髄性白血病(AML): 高齢者では治療効果が限定的な場合がある。
- 慢性骨髄性白血病(CML): 分子標的薬により、長期生存が可能。
- 慢性リンパ性白血病(CLL): 進行が遅く、経過観察で十分な場合も多い。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は2種類に分けられます。⬇️
ホジキンリンパ腫は欧米人では全悪性リンパ腫の約10〜30%、日本人では約3〜6%と少ないタイプです。私の経験の中でも非ホジキンリンパ腫は多いですがホジキンリンパ腫は1割程度しか経験がありません。
1. ホジキンリンパ腫(Hodgkin Lymphoma)
- リード・シュテルンベルク細胞(がん細胞)が特徴的です。
- 主に若年層と高齢者に多く見られる。
- 症状はリンパ節の腫れ、発熱、体重減少、寝汗(B症状)が多い。
- 治療法: 化学療法(ABVD療法が標準)、放射線治療。
2. 非ホジキンリンパ腫(Non-Hodgkin Lymphoma)
- ホジキンリンパ腫以外のリンパ腫を指し、種類が非常に多い(60種類以上)。
- 高齢者に多いが、どの年齢層にも発症する可能性がある。
- 細胞の種類や進行の速さによって以下に分類される:
- 低悪性度リンパ腫(Indolent Type): 進行が遅く、症状が出にくい。例: 濾胞性リンパ腫。
- 高悪性度リンパ腫(Aggressive Type): 進行が速く、積極的な治療が必要。例: びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)。
- 治療法: 化学療法(R-CHOP療法など)、分子標的薬、免疫療法(CAR-T療法)。
症状
・無痛性のリンパ節の腫れ(首、腋の下、鼠径部など)
・発熱、寝汗、体重減少(B症状)
・倦怠感、かゆみ
・病気が進行すると、臓器(肝臓、脾臓、骨髄など)に影響を及ぼし、痛みや臓器機能障害が現れることがあります。
診断
- リンパ節生検
腫れたリンパ節を取り出して顕微鏡で調べ、がん細胞の有無を確認します。 - 血液検査
血球数、LDH(乳酸脱水素酵素)などを測定します。 - 画像診断
CT、PET-CT、MRIで腫瘍の広がりや臓器への影響を調べます。 - 骨髄検査
骨髄にがん細胞が浸潤していないか確認します。
骨髄検査は非常に多い検査です。処置の手順を知ることで、医師とのスムーズな連携や確実な清潔・不潔操作の重要性を理解することが重要です。また、患者への説明や不安を軽減するサポートが大切です。
治療法
治療法 | 詳細 | 主な対象 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
化学療法 | 抗がん剤を組み合わせて使用し、がん細胞を攻撃 | ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫 | 効果が高く標準治療 | 副作用(吐き気、脱毛、感染リスクなど) |
放射線治療 | 特定の部位に放射線を照射してがん細胞を破壊 | 局所的なリンパ腫 | 局所的な治療に効果的 | 周囲組織への影響 |
分子標的薬 | リンパ腫の特定の分子をターゲットにした薬剤(例: リツキシマブ、BTK阻害薬) | 主にB細胞性非ホジキンリンパ腫 | 副作用が比較的少なく、特異的効果が高い | 長期治療が必要な場合がある |
免疫療法 | 患者自身の免疫を活性化してがん細胞を攻撃(例: CAR-T細胞療法) | 再発・難治性非ホジキンリンパ腫 | 画期的な治療法で高い効果を示すことがある | 高額で副作用(サイトカイン放出症候群など) |
造血幹細胞移植 | 患者自身またはドナーの造血幹細胞を移植して免疫系を再構築 | 再発例や難治性リンパ腫 | 再発リスクを減少 | 高リスクで長期入院が必要 |
支持療法 | 感染予防や副作用軽減のための治療(輸血、抗菌薬など) | 全ての患者 | 症状を緩和し、治療効果を高める | 根本治療ではない |
経過観察 | 治療開始が必要になるまで患者を観察する | 低悪性度リンパ腫(無症状の場合) | 不必要な治療を避けられる | 進行を見逃すリスク |
多発性骨髄腫
- 骨を破壊する因子を分泌し、骨折や痛みを引き起こします。
- Mタンパクが腎臓に負担をかけ、腎不全を引き起こすことがあります。
- 健康な免疫細胞や血液細胞が抑制されるため、感染症や貧血が起こりやすくなります。
主な症状
多発性骨髄腫では以下のような症状が見られることがあります。これらは「CRAB症状」として知られています。
症状 | 内容 |
---|---|
C(高カルシウム血症) | 血液中のカルシウム濃度が高くなり、倦怠感、便秘、意識障害が起こる。 |
R(腎不全) | Mタンパクが腎臓に蓄積し、腎機能が低下する。 |
A(貧血) | 骨髄での正常な赤血球産生が抑制され、疲労感や息切れを引き起こす。 |
B(骨病変) | 骨が脆くなり、骨痛や病的骨折が発生する。 |
その他の症状として、感染症への罹患率の増加、体重減少、全身の倦怠感などが挙げられます。
原因
多発性骨髄腫の正確な原因はまだ完全には解明されていません。ただし、以下の要因が関与している可能性があります:
- 高齢: 発症は主に50歳以上で見られる。
- 遺伝的要因: 家族歴のある人はリスクが高い。
- 環境要因: 化学物質(ベンゼンなど)や放射線への曝露がリスクを高める可能性がある。
診断
多発性骨髄腫の診断には、以下の検査が行われます:
- 血液検査:
- Mタンパクの有無や量を調べる。
- 貧血、高カルシウム血症を確認する。
- 尿検査:
- ベンスジョーンズ蛋白(異常な軽鎖タンパク)を検出。
- 骨髄検査:
- 骨髄の中にがん化した形質細胞が存在するかを確認。
- 画像検査:
- X線、CT、MRIで骨の病変や骨折の有無を調べる。
- 遺伝子検査:
- がん化した形質細胞の遺伝子異常を調べ、治療方針を決定する。
治療法
多発性骨髄腫の治療は、患者の状態や病期に応じて決定されます。
治療法 | 詳細 | 主な対象 |
---|---|---|
化学療法 | 抗がん剤(例: メルファラン)を使用してがん細胞を抑える治療法。 | 全ての多発性骨髄腫患者 |
分子標的薬 | プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ)や免疫調節薬(レナリドミド)を使用。 | 病状が進行した患者 |
免疫療法 | モノクローナル抗体薬(例: ダラツムマブ)を使用してがん細胞を攻撃。 | 再発例や治療抵抗性の患者 |
造血幹細胞移植 | 自家造血幹細胞移植で強力な治療を行い、がん細胞を一掃。 | 比較的若く健康な患者 |
放射線治療 | 骨の病変がある部位に放射線を照射し、痛みを緩和。 | 骨病変がある患者 |
支持療法 | 感染症対策、カルシウム値の管理、痛み止めなどの症状管理。 | 全ての患者 |
予後
多発性骨髄腫は完全に治癒することが難しい疾患ですが、近年の分子標的薬や免疫療法の進歩により、生存期間が大幅に延びています。早期診断と適切な治療によって、生活の質を向上させることが可能です。
まとめ
今回は血液内科病棟で働く看護師の役割第一弾として疾患について取り上げました。私が最初血液内科に所属になった時にはどうしても難しい疾患というイメージがあり、勉強から躓きそうになりました・・・。しかし、一番いい勉強法は認定看護師、エキスパート、医者からの勉強会をしていただくことです!調べて文字で見るより、より分かりやすいですし、質問することもできます。ぜひ周りの先輩や医師と積極的にコミュニケーションをとって自分の知識の向上に努めましょう🫘
次回のブログでは技術編をお届けします✏️
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